敏感な火災報知器に呼ばれたクララさん。
火災報知器の話。
クララさんの部屋にも聞こえる大きさで、火災報知器の甲高い音が響いた。
クララさんは慌てずに、
「誰かやっちゃいましたかね」
と言って、足早にエレベーターのスイッチを押した。音は2階から響いていた。
「もともと、僕が管理人をやるきっかけとなったひとつなんです。これは」
エレベーターを降りて通路に目を向けると、お部屋の住人らしき人が、ドアを半開きにして部屋から出てきているところだった。
「ああ、すいません。クララさん。やっちゃいました」
申し訳なさそうにクララさんに頭を下げている。
「大丈夫ですよ、春山さん。前も言った通り、敏感な子なんで」
そう言うと、クララさんは、早速部屋の中に入り、慣れた動作で、部屋の中で甲高く鳴いている報知器を止めた。まもなく部屋の中にはいつもの静けさが戻ってきた。
春山さんも一安心した様子である。
「お湯を沸かしていたら、つい……」
春山さんは呟いた。
「まあ、やっちゃいますよね。そのために僕がいるようなもんなんで。引き続き、ゆっくりご飯にしてください」
「はい。ありがとうございました」
ひと段落して、部屋に戻りながら、クララさんは言った。
「ここのオーナーの入江さん。僕の友人なんですけど、もともと、ここの火災報知器を持て余していたそうなんです。ちょっとした湯気でさえ感知してしまって、ある時には、消防や警察も繰り出す事態になったとか」
火災報知器自体はもうすぐ取り替えられるそうだが、クララさんがこちらの管理を頼まれるきっかけになった理由のひとつだそうだ。
というか、頼まれたクララさんも、油断して鳴らしてしまったことがあるらいい。
「いやあ……、面目無い」
注意喚起はしていても、それで気分を害されるお客様も多少なりいたそうで。
しかし、そこはクララさんの持ち前の人間性で、最後はご満足頂いたというお話もあったらしい。
「でもまあ、これだけしっかりと危機を察知してくれれば、管理する方もひと安心です」
ものは考えようだった。
(※この物語は実在の場所と施設と関わる人々を元にしたフィクションです。)