京都三条ゲストハウス夏。墓参りツアー中編。
「ビビッてないし!!!」
玄馬君は主張した。
囃しているのは明奈ちゃんである。
裏口から我さきへと飛び出して、墓地へと続く石道を歩きながらズッコケた。石道の幾つかはツルリと滑りやすいのである。完璧に忘れていた。
「あんたにもあんなかわいい声が出せるのね」
とても嬉しそうである。
「ほら、それくらいにしていくよ。あんまり騒ぐと迷惑だから」
そう言って賢一君は玄馬君の背中を押していく。お、押すなって……、と若干慌てている玄馬君である。
「そうね。ご近所様にも、幽霊さんにも」
浅山さんは澄ましている。
「礼、余計な事、言わなくていいから」
早瀬さんは毒づいた。礼というのは浅山さんの下の名前である。
『前途多難だ……』クララさんは暗闇に向かって心の中で呟いた。
一行はまもなく墓地の入り口に入っていく。
ちなみにその先を通り抜けると、神社境内の横手に出られる。つまりはゴールだ。みんな通り抜けて往復する気満々である。通り抜け料の賽銭を払わねばいけないのだから。
「墓地って言っても大したことねぇな。ただの墓じゃん」
玄馬君は余裕を見せている、……が、
「さっきまっさきに悲鳴を上げたのはどいつかしらね~」
と明奈ちゃんは言った。皆、言うと思ったので、もはや反応は早い。
「そういえば、クララさんの奥さんってどんな人なんですか?」
颯爽と横槍を入れたのは早瀬さんだった。
「なんだい、いきなり……」
もうちょっと他に話題あったろう……、とクララさんは早瀬さんを横目で見た。
早瀬さんは悪げの全くない瞳で見つめている。どうですか、このファインプレー! と言いたげな様子である。
「私もそれ気になります」浅山さんが同調する。
「あ、それ、俺もー」玄馬君が続いた。
「賢一君は知ってるんだっけ?」
早瀬さんに賢一君がうなづいた。
「うん。綺麗な人だよ。週1くらいで滋賀から京都に来るから、時々あったりしてる。多分クララさんよりしっかりしてる」
「尻に敷かれてるってことか」玄馬君が茶化したように言った。
「あんたもそのタイプよね」
明奈ちゃんがさっそく毒づいた。
「俺は、引っ張っていくぞ。好き勝手させない」
「亭主関白ってことね。玄馬サイテー」
そうか、こうして二人の喧嘩はエンドレスに続いていくのか……。
クララさんは早々と見抜いた。
「話したことはあるの?」
早瀬さんが聞いた。
「優しいし、元気な人だね。クララさんと一緒に清掃の仕事を手伝ってることも多いけど、受験勉強中に手作りのお菓子差し入れてもらった時はおいしかったなー」
「早々と胃袋を掴まれたのね」
浅山さんがまた冷静に突っ込んだ。
「……。実際はかどったのでそうとも言える……」
賢一君は笑って言った。
「ということだ、美緒。得意分野だろうし頑張れ」
早瀬さんの下の名前は美緒である。浅山さんはナイスフォローをした。多分。
「ってなんでそうなるのよ!」
こうして一同は一向に静かになることをせずに、墓の中ほどを越えて楽しく進んでいった。会話に幽霊の入る隙がない。
クララさんは妻のことを考えながら、何事もなく終わりますように、と夜空を見上げた。
今夜の三条はあったかい。夏だから当たり前か。この後ちょっとは冷えるかもしれない。
(※この物語は実在の場所と施設と関わる人々を元にしたフィクションです。)