車はないが足はある。三条のゲストハウスを、今日もクララさんは渡り歩く。
車はないが、足はある!
クララさんが京都に来てから何かと大変なことの一つに、車がないことがある。
滋賀の頃には車は当然のようにあったが、京都に来てからは、車で移動が叶わない。
月極駐車場が高いのだ!
琵琶湖を眺めながら車を走らせていたあの頃が懐かしい。
売り上げを伸ばさないことにはなかなか所有することができない。独立直後あるあるだ。あるあるは勝手に言っているだけだけれど。
実は自転車も持っていない。だから通勤は徒歩だ。とても健康に良い。いや、そういう問題ではない。でも健康には良い。
大雨か大雪でも降らないだろうか。そしてゲストハウスに泊まって雨宿りしてくれれば売り上げも上がるのに。
なんて馬鹿なことを考えたりもする。そんなクララさんに向かって槍が降ってきそうである。そんなこの頃。
通勤は片道1時間圏内。自分の住んでいるゲストハウスだけが仕事圏内ではない。というかそれでは仕事にならない。
電車やバイク、自転車での移動が普通なこの京都三条の街で、徒歩なんて。
「慣れては来ましたけど、心は未だに慣れないです。考えたこともなかったので。というか、流石にしんどくなってきました。ゲストハウス間の移動なんですが、時間決められてるので、悠々とやってもいられないんですよね。まあ当たり前なんですけど」
クララさんは笑って言った。いつも通り元気はあるが、疲れているといえば疲れている。
「今は単身赴任なので、妻ともいつでも会えるって訳ではないんですよね」
ただ、ちょくちょくラインやビデオ電話でやり取りしているそうだ。ITがもたらした時代の名器には感謝しているようで。
「スマホ様様です」
とのこと。
そのうち3D通信機なんか出来たら、クララさんはきっと大喜びだ。その頃にはもっと稼いでいるに違いない。では特に大喜びもしないのか。
なにはともあれ、クララさんは、今日も三条の街を歩いていく。その背中に映るのは、この道で生きるという確固たる覚悟の文字。なんかかっこいいぞ。
(※この物語は実在の場所と施設と関わる人々を元にしたフィクションです。)