肝試しと墓参りは節度を持って。京の夏のゲストハウス前編。
たまには肝試しも一興ですよね。
これは受験生の賢一君が夏真っ盛り、勉強の気晴らしにいっちょ肝試ししてみようぜ! となって、友人たちを引き連れて、ゲストハウスにやってきたときのお話である。
「確かにうちの裏手にはお墓があるけど、本気かい? バチが当たって落ちてもしらないよ」
クララさんは諫めるようにいった。
「若気の至りと思って見逃してあげてください」
賢一君はバツが悪そうな顔で言った。
「まあ、あとで神社の賽銭箱に使用料でも入れといてあげて」
クララさんは軽く笑いながら、ゲストハウスの裏手にある、神社へと続く通路へ、賢一君たちを案内していった。
今回の神社肝試しへ挑戦するのは賢一君入れた5名の面々。
「それにしても、軽いバケーションよね。賢一君、なんかうらやましい」
その中でも快活そうな女の子が楽しそうに言った。明奈ちゃん。
「いつまでそんなこといってられるか見ものだな」
余裕たっぷりに笑いながら言ったのが、隣の男子。玄馬君。
もういっぺん言ってみなさい、と早くも目つきが鋭くなる明奈ちゃん。
「あの二人はいつもあんな感じなの?」
クララさんは微笑ましく見守っていた。
「すいません、夜遅くにお邪魔して。ご迷惑じゃなかったですか?」
対照的に、申し訳なさそうに挨拶してくれたのが、礼儀正しそうな女の子。早瀬さん。
「大丈夫やで。夜遅いのは賢一君で慣れとる」
「賢一君もやんちゃね」
「分かってていうんだもんな、早瀬さん。意地悪い」
「でも、裏手が、お墓につながっているって、お客さん、大丈夫なんですか?」
このゲストハウスの裏手には、神社があり、その神社の敷地内に、お墓があるのである。つまり、ゲストハウスの経営的には、普通は、マイナスイメージだろう。
現に何かが通った的な話は、よく聞く。主にクララさんから。(あれ?)
冷静な質問をしてくれているのは、浅山さん。ちなみにクララさんから見て一番頭が良さそうな印象の女の子である。この子がいるなら多分大丈夫だろう。何が大丈夫なのかはわからないけれど。
「うーん。まあGolden Trees名物裏手のお墓さん、やね。肝が冷えて涼しいで」
「それ、冬だとどうなるんですか」
「寒くて怖い人たちは冬眠やね」
「既に眠ってると思うんですが……」
「浅山ちゃん、そこは細かく気にするとこやないで。無暗にこわがらんと、楽しめばええんや。もうちょい大きくなったら、彼氏でも連れて使ってくれな。冬は二人であったかく、夏は肝冷やして二人の関係を進めておくれ」
「考えときます……」
そうして話しているうちに、通路突き当り、ゲストハウスの裏手、神社の墓地に続く扉の前までやってきた。
「まあ、これといって危ないこともないやろうけど、整地された場所でもないし、そもそも肝試しって目的が、なんだかんだ、お墓に対してよろしくはないだろうから、きちんと敬意を払って。そしてお互いに固まって歩くように。こういう時間やからね。静かに楽しむように」
それじゃ開けるで。そういって、クララさんは扉の鍵を開けた。
そうして元気よく飛び出していったのは玄馬くんである。
「よっしゃ、誰が一番に腰ぬかすか愉しみやわ」
クララさんはなんだか心配になった。
気を取り直して、扉の鍵を閉めた。
「すいません。よろしくお願いします」
賢一君が改めてそう言った。
「育ち盛りやからね。元気なのはいいことや」
おおらかなクララさんに呼応するように、ゲストハウスの夜はゆったりと更けていく。
京都三条、真夏の墓参り兼肝試しはこうして始まった。誰の墓参りかは不明である。
ちなみに大方の方が予想される通り、真っ先に甲高い声を上げたのは玄馬君である。
(※この物語は実在の場所と施設と関わる人々を元にしたフィクションです。)